石垣 幸二さんインタビュー「1つのことをとにかく追求してみよう!」世界中を飛び回る深海水族館の館長の仕事とは

世界各地の海から深海魚を集め、世界中の水族館に納品するなど、ユニークな仕事をされている石垣幸二さん。
現在館長を務める、沼津深海魚水族館の話とあわせて、その人生観を伺ってきました。

世界各国を回る凄腕仕事人 石垣さんのサクセスストーリー

編集部:館長さんのお仕事は基本的にはどういったものでしょうか

石垣:多岐に渡りますが、水族館の委託管理業です。
お客さまが安全に楽しんでいただけるようなプログラムをまとめたり、深海生物の管理、畜養して演出するところまでプランニングします。
あとは水槽の設備を作ったり、水族館の運営に関わることはすべて行います。

編集部:館内でも人気者の石垣さんですが、幼少期はどのようなお子さんでしたか?

石垣:幼少期はひとことでいって「小僧」(笑)ただの言うことを聞かない小僧でしたね。あまり勉強しなかった。
特に海が歩いて3分の距離だったので、毎日のように海に潜ったり、釣りしたり、もうとにかく海でずっと遊んでました。

編集部:小さい時からお魚には興味があったのですね

石垣:興味があったと言うよりは、生活の一部でしたね。当たり前のように目の前に海がありましたし、特別感はありませんでした。

編集部:そんな幼少期の石垣さんに、ご家族はどのように接していましたか?

石垣:そうですね、家族はわりとほったらかしです(笑)
お父さんは私にあまり小言を言わなかったし、ひたすら明るい人でした。
お母さんは着物を縫う職人だったんですけど、いわゆる、「正直に生きろ」と。「人の役に立つ為に、人がどうやったら有難いと思うのかを常に考えて、正直に生きなさい」と、それだけを私に言ってました。

編集部:今もそれは心の中にありますか?

石垣:ありますね、その後の人生の指針になっています。

編集部:現在のご家族についてお伺いしたいのですが、お子様との関係はいかがですか?

石垣:母の受け売りになってしまうのですが、子どもたちには人に誠実に、と一貫して言っております。
口でああしなさい、こうしなさいなどと言うのではなくて、常日頃の態度として、背中を見せながら子供に学ばせる。彼らが見て判断して行動してくれていると思います。
自分たちの生活態度や目指すものを、そのまま子どもたちに見せることが、一番効果的な教育ではないでしょうか。

編集部:お子さまが小さいときは、一緒に生物とたわむれたりしましたか?

石垣:はい、私が仕事を始めた時は1人だったので対応できたのですが、徐々に水槽も増やしていく過程で、長男や長女が子供の頃から手伝ってくれるようになりました。

編集部:飼育をしたり、お世話のお手伝いを?

石垣:はい、外国から魚を持ってきた日などは、遊ぶのをやめて合流し、一緒にハサミを入れてアクアリウムに移す作業をしていましたね。従業員さんですね(笑)

落ちていた状態から一気に上がっていって立ち直った!

編集部:お1人で始められたとおっしゃってましたが、今までに困難なことも多かったと思います。お伺いしても宜しいですか?

石垣:そうですね困難というレベルではなく、もうダメだと何度も思いました。1年持たないと思ってましたし。
独立した時も銀行からお金を貸してもらえなかったり、会社を1人で始めましたから、誰も相手をしてくれなかったり、友達も去ってしまったり。
魚で仕事をしたかったけど、魚の携帯ストラップ作ってみたり。とにかく試行錯誤していました。

私に転機が訪れたのは、本当にたまたまなんです。
モナコで世界水族館会議というものが開かれて、そこに誘ってもらえたまして。
日本の水族館は120〜くらいあって歴史もあるので、実は世界の水族館会議の出席者の10%が日本の水族館なんですね。
私は昔から外国の人とかとも家族ぐるみで付き合いをして、お互いの家に寝泊まりをしたり、ダイビングや釣りをするなど交流があって、そこで親しくなったオーストラリア人が、私なら通訳だけじゃなく、日本の水族館と外国の水族館と通じることができると判断していただき、誘っていただいたんです。
会社はもう潰れそうだし、どうしたもんだろうと思いましたが、何かアクションを起こさなくてはと切り替え、貯金を下ろして11万円の航空券を買いモナコに向かいました。

会議ではたくさんの研究事例を聞けました。
その中でも、アメリカのパイオニアと言われているフォレスト・ヤング研究者の発表が、とても印象的でした。
カリブ界隈の海域でしか獲れない、1mにも満たない希少なサメがいるのですが、それの納入価格が1引おおよそ100万円。ただし、飼育が難しくて、どうしても長生きしてくれないんです。
彼はその失敗例を発表していました。

それを聞いて私は、なんで失敗例を発表してしまうんだろうか。そのまま納めたら、高額な売上を継続させられるのに、などと思っていました。
なので会議のあとにそのことを彼に聞いてみたんですね。
すると彼は「お前はなんのためにこの仕事をしているんだ」と、一言いって去ってしまいました。
彼にとっては日本からきた私は、魚を獲って売って商売したい、ただのお金好きに映ったんでしょうね。言われた瞬間に悟り、恥ずかしさでいっぱいになりました。
海が好きだからこの仕事を始めたはずなのに、俺は一体何をやっているんだろうと。

彼が目指していたのは、その貴重なサメが水族館に納められたあとでも、5年10年20年と生き続けて繁殖し、世界中の多くの人に知ってもらうことだったんですね。
そのためには、飼育の失敗例を報告して、皆で改善していくことが重要だと。それを会議に参加した世界中の水族館関係者に問うていたんです。

※フォレスト・ヤングさんとの一枚

気持ちを切り替えて

なるほど、これが本当のスペシャリストかと。
彼を目指そう。そしてゆくゆくは彼を超えてやる、とそう決意しました。
モナコから帰ってきたあとも、急に業績が好転するわけでもなく、生活は苦しかったですが、信念を持って仕事に取り組みました。
そんなある日、アランという協力者のツテで、アメリカのアトランタにある水族館から、オーストラリア界隈の海域に住む、1匹40万円の小さな深海魚4匹のオーダーを受けたのです。
トータル160万円!
とんでもない額だ!これを決めたら当面生活ができる、と大騒ぎになりましたね。

本来、水族館に納める場合は、死着してもお金をいただけるのが通例です。
ただし私はモナコの会議以降、彼になろうと決めていたので、到着して24時間以内に深海魚が死んでしまったら、私が補償すると決めていました。
強い覚悟を持って魚を送り、24時間待ちましたが連絡はなし。
よし、無事に仕事が終わった!ということで、家族で出前の寿司を頼んでお祝いしました。

ちょっと気になっていたんですね、実は。
ちゃんと生きてます、の連絡が欲しいと。
でもビビってしまって電話ができませんでした。
すると1週間経って、唐突に一通のメールが来まして「All Dead(みんな死んだ)」と。

紹介をしてくれたアランのメンツもあり、何より私が決めた信念がある。
何日も自問自答を繰り返し、私は全額補償を決意しました。
アランからはお礼の言葉をもらいましたが、反対に家族からは愛想をつかされましたね。。私が仕事をして家族を支えると、妻が出ていってしまいました。

信念が実った日

そこから2ヶ月ぐらい経ったあと、
急にアメリカの主要としてあるボストンやワシントン、シカゴ、ロサンゼルスの水族館から、合計で42体 「魚を送れ」と連絡が入ったのです。前回死んでしまったあの深海魚です。
1匹40万円の魚が、見積もりじゃなく、正式な発注としてきので、「これは何が起こったんだ?」と思い、知り合いであるボストンのニューイングランド水族館のスティーブに聞いてみたんです。
すると彼が

「お前、AZA(Association of Zoos and Aquariums)に掲載されてるぞ」と。

アメリカの動物園水族館協会に、私の会社の情報が詳しく載っていたようです。
私は登録した覚えもないので、調べてみると、オーストラリアの件で協力者のアランが、私の会社をアピールしてくれていたんです。
もう本当に天にも昇る気持ちでした。今思い出しても、あの発注がなければどうなっていたかと、少しゾッとします。

そのときの納品はパーフェクトに行えまして、この情報がいっきにアメリカ全土に流れると、そこからアメリカのオーダーが増え、私の会社も安定し始めました。
信念が実を結んだことが、何よりも嬉しかったです。

子供インタビューコーナー!

キッズ編集部:深海の生き物以外で、いま興味を持っているものはありますか?

石垣:深海生物以外で?
全然変わっちゃうんだけど、実は舞台が好きなんだ。ミュージカル、お芝居、映画などなど。
でもほとんど海の仕事をしていて、休みが1年で5日ぐらいしかないから、空いた時間は優先的にお芝居やミュージカルを観にいってますよ!

キッズ編集部:深海の生き物で1番気にかけていることは何ですか?

石垣:なるほど…
一人で捕獲している人がほとんどだと思うけど、捕獲は意外となんとか成功できるんだよね。もちろん大変なことだけども。
問題は、捕獲したあとに無事に輸送して適応させるのが大変で、スタッフと協力して、水温は何度だとか調整をしながら保管をするんだ。
そのあとは航空会社と話をして輸送スケジュールを決めたり、管理する際のバックヤードで餌はどうする?とか、納品先の水族館のスタッフさんとミーティングをしたりだとか、とにかく人の助けがないと絶対に成功はできない。
つまりチームワークが重要なんだね!
どの工程でもミスがあると、魚死んじゃうからね。
これは技術じゃないと思うんだ。扱う魚を人間が仲悪いと魚も死んでしまう。だからチームワークを本当に上手に、同じようにテンション上げて仲良くやらないとダメ。

徹底した管理体制

編集部:それ以外にも心がけてることはありますか?

石垣:1番大事なのは水温調整ですね。
深海では表層から気温もの影響を受けて、季節によって水温が全く変わってきます。
世界中の海域の水温を、深度別に全部把握しないといけないのが大変です。
深海魚はデリケートで、1度でも間違えると死にますから、そこの水温管理には非常に気を配ります。
あとはなるべく早く暗い環境にしてあげること。それも重要です。

編集部:水揚げしたときに色んな種類の深海魚がいる場合は、瞬時に適切な対応をされるのでしょうか?

石垣:そうですね
これは何が上がってくるか正直わかりません(笑)
だいたいの底引き網の漁で1回で3~40種類は上がってきますが、優先順位的に狙ってる生物をだいたい頭に入れているので、狙っている生き物を最初に拾って、冷たい水槽にいち早く移動する作業が最初の行動です。
この優先順位の判断が10秒遅れると、個体が死にますので、弱い魚を優先して直ぐに移します。
これはもう説明しきれないですね、経験で判断するとしか。

編集部:まだまだ見たことの無い魚がいると思うんですけど、新種を発見するというのは確率的にはどれくらいありますか?

石垣:確率的にはそうですね…1年に10以上はあるでしょうね
ただ新種登録に関していうと、魚は特に時間がかかります。多分1番短くても10年はかかるでしょう。100年かかった例もあるぐらいです。
日本で周知されるだけではダメで、海外でも論文として通らないといけない。
なので未知採集(これまで登録されていない魚)という意味であれば、私は年に10種類以上はあげていると思います。
申請中のものもいっぱいありますよ。

編集部:今後の水族館をこうして行きたいというビジョンはありますか?

石垣:元々委託で管理させて頂いてますが、ここが完成する前にオーナーに頂いた言葉が、

「地元の人が自慢できる施設を作ってくれ」

というものでして、やはりこの言葉が響きました。
以来この言葉を目標にしてきて頑張っていますし、なんだかんだこの施設は成功していると思います。
技術的なことはもちろん、安全面やオペレーション面でもお客さんに親切な施設を目指しています。

編集部:最後にこの記事を見た方にメッセージをお願いします。

石垣:最近はネットがあるので、情報があまりにも早いし、すぐに知れてしまう。そのせいで全て理解したと錯覚する場合も多いと思うんです。
生物を扱っているとわかりますが、そんなに簡単じゃない。
10秒で喋れることですが、それって10年かけてやらないと分からないことがいっぱいあるんです。でもそれが実はすごく面白い。
私は馬鹿みたいに時間をかけて1つのことを追求する、「これでいいや」じゃなくて、どこまでもどこまでも追求するような姿勢が重要だと思っています。

一つのことに熱中すると、周囲は「バランスよくやりなさい」と言いがちです。
でも私はそうは思わない。子どものときもそう言われたためしは無かったです。
母親からも一つのことを「吐くまでやれ」と言われてたくらいです(笑)
本当に思い切って一つのことをやりきるって、大事なことですよね。

あとはやっぱりもう先程も言いましたが、水族館はチームワークなんですよ。
人間ひとりの能力なんて、正直大したことない。私も平々凡々な人間だし、周りの優秀なスタッフに助けられている日々です。
成績優秀なことも大切ですが、好きなことがあったらそれを追求する力をつけることも大切ですし、それをやって行く過程で、同じようなことを目指してる人たちと出会えるんです。

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